「審美眼」の扱い方:創作スキルの入口

daily0 本音たち。

「美しさって何?」という審美眼の問い方を知っておくことは、

ロジックや知識を広く深く扱う上での判断力につながる。

アビゲイル・ハウゼンが考案したヴィジュアル・シンキングという美術鑑賞の方法論があり、

これは同氏が6歳から80歳代まで2,000人以上の被験者に対して行った調査に基づく。

スキルとしての審美眼が、以下のようなフローを経ていくとなると納得が行く。

1段階

説明の段階(Accountive Stage)

・作品をじっくりと見ようとせず、個々の感覚や記憶、経験への連想に偏る。

・美術鑑賞の経験の少ない人(子どもが主になるが、年齢で必ずしも判断できない)。

・主観的で、自分の好き嫌いによって作品を見る。

・作品から刺激を受け、自分自身のことを物語として話す。

2段階

構築の段階(Constructive Stage)

・好き嫌いではなく、作品を観察することを心掛けるようになり判断の基準が広がる。

・主観性を抑制し、客観的に作品を見ようと試みるが、比較・相対・評価は、自分自身の価値観が優先し、自身の考え方と異なるものには抵抗感をもつ。

・「なぜ、これがアートなのか」という質問をするようになる。

・(アメリカの)美術館に来る人のほとんどは、この段階に属する。

3段階

分類の段階(Classifying Stage)

・作品を想像ではなく、歴史的事実を踏まえて見ようとする。

・美術に関する知識や情報を得ようとする。また、教育者を必要とせず、文献やアーティストとの出会いを必要としている。

・客観的な思考に執着し、作品に対する直接的な反応、主観性を欠如している。

・美術館が提供する解説やカタログに合う人。

4段階

解釈の段階(lnterpretive Stage)

・美術史、技法などのあらゆる知識を踏まえた上で、自分の感性を加えて解釈ができる。

・鑑賞に関して、美術館が提供する援助を必要とせず、自分たちで学んでいくことができる。

・アートを職業とする人々の多くがこの段階に属する。

5段階

再創造の段階(Re-creative Stage)

・美術に関して熟知しており、創造者であるアーティストという存在に最大の敬意を払う。
・客観性に対する固執、主観性に対する抑制からの解放。
・作品と対話するかのような深い思索ができる。
・知恵や洞察力に基づく遊び的視点をもつ。

 

出典:『審美眼的発達に基づくヴィジュアル・シンキング カリキュラムに関する基礎的研究』(杉林 英彦)

審美眼的発達に基づくヴィジュアル・シンキング カリキュラムに関する基礎的研究
J-STAGE

「第1段階 説明の段階」「第2段階 構築の段階」「第3段階 分類の段階」は、

単なる感想ではなく、分析的なアウトプットを行う技術の獲得過程として興味深い。

いっぽうで「第4段階 解釈の段階」と「第5段階 再想像の段階」については、

技術的なアウトプットを一旦ぶちこわして独自性を出す上で、示唆に富んでいる。

第4段階について可能性を広げると、

「…あらゆる知識を踏まえた上で、自分の感性を加えて解釈ができる」

「…自分たちで学んで行くことができる」

ことができれば、それはコメントから始まる評論や専門性の入口だ。

第5段階については、

「…最大の敬意を払う」

「客観性に対する固執、主観性に対する抑制からの開放」

「作品と対話するかのような深い思索が出来る」

「知恵や洞察力に基づく遊び的視点を持つ」

ことは、臆見まみれで適当な発言をする層には、耳が痛い言葉だろう。

(「…自分たちで学んで行くことができる」という要素も、同じく耳の痛い言葉だと思う人がいるはずだ。)

ウェブ上でちょっとしたコメントを行う程度のものでさえ、

この工夫があるかないかで、品質の優劣が決まってしまうということがポイントだ。

ちょっとしたコメントとは、何かを解釈して創り出すことであり、

創作や創造とは、その延長に用意してしまえばいいのである。

ウェブ上のコメントに限らず、ココ・シャネルの強烈かつ本質を衝いた発言や、

美術・音楽・文芸に限らず、果ては数学や物理学やコンピュータ・サイエンスや

ビジネスやYouTuberだとかを問わず、知識を仕入れて再創造してみるとどうだろう。

(『笑う数学』なんかが、アウトプットの行き着く先にありそうだ。)

本を読んだら、自分を読め』とは良く言ったものだが、

インプットとアウトプットの壁を限りなく取り払ってしまう上で、

審美眼で知識を磨き上げてアウトプットすれば、

肩肘のはらない気楽な創作の入り口にたどり着けるということだ。

 

boxcox.net、遠藤武。

遠藤武(えんどう・たける)
グロースハッカー。

↑詳しい自己紹介は上記リンクを参照。

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