「広告代理店って、ITとデータドリブンベースの攻め方に勝てないよね。」
「日本の大手広告代理店はITコンサルティングかIT屋さんに負ける。代理店形式は古い」
「あと5年で広告代理店はお払い箱だ」
という言説を、統計学やデータサイエンスに詳しい方々がウェブで話しているところを、
かつて見かけた記憶がある(2022年の今となっては、もう5年くらい前のことだ)。
なるほど、技術革新を考えれば、これは「技術力の差」から来る帰結として頷ける。
いっぽう、これには大きな視点が欠落している。さて、なんだろう?
答えを出していこう。
そもそも、彼らの視点には以下の前提条件がヌケている。
・どんな売り手・買い手がいるか?
・どんな商習慣があるか?
・どんな勘定や感情を根拠にプロジェクトを受注しているか?
・技術革新が本当に全面的に既存事業の代替策になるのか?
・広告代理店サイドはIT活用が本当に出来ないのか?(実態は行っているが2〜3ヶ月単位)
・ITに詳しい企業が新規参入して、本当に広告を受注できるのか?
・ITに詳しい企業は、広告代理店と協業するサービスを模索する可能性を探らないのか?(逆はないのか?)
などなど。
技術やさんは、技術職としての専門知識があるばっかりに、技術革新ばかりを優先させてしまう。
なので、こういう大きな漏れをビジネス全体に持ち込んでしまうのである。
そもそもの話として「技術だけでビジネスが成り立つことはない」ことを念頭に置く必要がある。
なので、
・「技術革新がビジネスにインパクトを与えるというモデルを組む上で、商流やサプライチェーンや契約といった条件が考慮に入らない理由はなぜ?」
・「技術革新だけではビジネスは成り立たないので、モデルとしてありえないけど、なぜそう発想するのか?」
・「そんな誤謬があるのに、本当に統計学の基礎をシンプルかつ直観的にわかって使いこなせているの?」
という疑問が出てきてしまう。
技術職として統計学を相当使いこなしていることはよく理解できる。
が、にも関わらず「技術を用いてビジネスの全体像を割り出す」という素直な発想はない。
自分の場合、統計学と並行してSCMや会計学もマーケティングもマネジメントも、
また複数分野の業界知識も使って来ているため、
「技術だけでなく、全体像や網羅性や目標設定がなければ、ビジネスの意思決定上危ないよ」と即答している。
(そもそも、ビジネスの全体像を見ない技術者は、チャージレート1時間おいくらで動かされるだけにとどまるのだが。)
ビジネスを論じる上で上記の発想が「統計学を知る技術者」に無いことに、組織の限界を思い知らされる。
技術とビジネスを足したとき、理路整然と間違える「合成の誤謬」が起こっているということだ。
いくら統計学が網羅的だといっても、統計学と他分野を安直に足し算したところでインサイトは出ない。
技術革新が、シンプルに市場全体をかっさらうことが、必ずしも成り立つわけではない。
技術革新は、サービスとして立て付けられたものを「欲しい!」と言ってくれる人とセットである。
むしろ「ITに詳しい企業が、日本の広告代理店と協業するサービスやコンサルティングを模索する可能性を探る」「あるいは広告代理店が資本力を活かしてIT分野を取り込む」という仮説のほうが、よりマイルドで現実的だ。
テレビ業界をパートナーに抱え、独特な構造を持つ日本の広告代理店とケンカをする理由は、IT企業側にあるのだろうか?と。
現に広告代理店も2〜3ヶ月単位で技術を活用していたり、長期的にIT分野にどう打って出るかをコンスタントに検討しており、冒頭の言説は「知識の差と資本力の差」で打ち破られたというのが答え合わせなのだが。
統計学を用いる上でも、それ以前のお話としても、分布している対象の事実を的確に把握することが重要なのである。
現実解。
統計学を相当良く知る技術職ゆえに、対象の全体像を無視して、サンプルを歪めて語りだしてしまうのである。
この逆をとると、実はあっさり勝ててしまう。
こういう「素直が勝つ」という戦術が効く分野は、思いのほか相当多い。
追記。
2016年10月15日23:54に公開し、
いったん非公開にしていた記事を、
加筆・修正して再公開した。
現時点では、
統計学を扱う「データサイエンティスト」が、
「統計家」ではなく「機械学習エンジニア」にシフトし、
下請け的なコモディティと化している事実がある。
けっきょくエンジニアの序列に飲まれてしまったが、
多変量解析と財務でビジネス側に攻め込めば、
まだまだポジションと待遇を上げられると覚えておこう。
このような誤謬は、知見や知識がある上で、ポジションでも仕事をすれば、防げる。
boxcox.net、遠藤武。