「遠藤さんはリサーチアナリストを経験している中で、その役割や待遇やスキルといった立ち位置はどのようなものだという感度を持っていますか?成長する上で目指す価値はありますか?」
アナリストの立ち位置についてよく聞かれますが、アナリストはあくまで「予測・分析・評価する側どまり」というのが実情かと思います。
特に証券会社やシンクタンクの調査部門や、独立系リサーチ会社だと、予測のパフォーマンスで評価されるか、リサーチレポートの売れ行きといった人気投票は避けて通れません。
30代にさしかかると待遇が良い(=20代のうちは洞察を出すポジションに就きようがない)というのは、他の年功序列の仕事に近いかもしれません。
しかし、ひとたび調査分析レポートについて「自分の権限で洞察を出してOK」という強い立場が与えられると、話は変わります。
数理統計学を用いた価格や需要の予測は、単に経済指標だけを見ていても始まらないため、インタビューを通じて変数を仮定し、現実解を出す必要があります。
価格や需要や売上を数理モデルで表すために、論文や専門書を読み込んでいくことなどしばしばです。経済学も必要ですが、それよりもオペレーションズリサーチ(OR)や、統計物理学に関わるような基礎知識が数多く求められます。
財務モデリングやキャッシュフロー予測は、価格や需要や売上予測が基点となる形で行われます。
権限があるゆえに、メディアの取材を受けて洞察を繰り出し、大局観を捉えられるようになってくると、自ずと評価されていくのです。
このような独任制に近い権限の立場に、フルタイムで年収1千万円などあっさり付与されるのです。
しかし私にとっては「そのレベルで安穏としていていいのか?」という疑問が常にありました。
理系も文系も両方必要な分野の知識を日々ゴリゴリとむさぼり、知識もお金も集まる立場から洞察という価値を生み出し続ける上で、ちょっと夢がなく限定的だなと思ってしまったのです。
魔が刺したと言ってもいいかもしれません。
より丁寧に言えば「枠を超える問答」をついつい始めてしまったのかもしれません。
独任制に近いサラリーマンの立場が、人事考課や業界からの評価などのしがらみがなくなり、制度を超えて独立したならば、そこにはどんな世界が広がるのだろうかな、とつい思ってしまったのです。
待遇やスキルは大事ですが、その最上位の下限を得たあとは、待遇もスキルも自分で定義して、自分にしか出せない価値を出していくのです。
市場の分析をしていくと、数理モデリングをしながら、実際の人間や社会や科学の動向と向き合うことになります。究極的には、価値を作って提供する立場に移り、営業に見えない営業をすることも可能です。研究の流儀とも似通って来ます。
となると、自分にとってどんな価値観が大事か、枠をつくらず、根本から本音で向き合うことが必要です。
現実解。
私の場合、単なるキャリアという価値はあくまで他人の物差しであり、成長して一定水準を超えたら自分の価値を出すという答えに行きつきました。
アナリストという立場を分析して、このような答えに行き着く必要性は必ずしもありませんが、一定水準超えを経てしまうと、立ち位置を超えて面白いことをしたくなってしまうと実感します。
最終的には、自己分析にいきついてしまい、分析が高じて連載にも繋がっており、そこから独自の価値を出しています。
「枠を超える問答」を面白いと思うなら、アナリストのような立場には、向いているのではないでしょうか。
アナリストという分野の根本には高校や大学受験などを基礎とする5教科7科目の知識が必要です。
仮に別分野で「枠を超える問答」を探すなら、アナリストだけでなく単に仕事ができる人として活躍できる可能性も高いのではと思います。
boxcox.net、遠藤武。