外資ITがリモート縮小を進めるのは、権限の小さい従業員向けのマイクロマネジメントのため。

daily11 スモール分析。

「誰もが名前を知る外資企業が『リモートワークを減らして出社しましょう』と言い出す状態が目立ちます。これはどんな理由があるのでしょうか?遠藤さんはサラリーマン時代に外資企業に勤めていたので、その観点からも実情が知りたいです」

 

実は外資企業は、マネジメントがものすごく厳格です。

自由なように見えるのは、選抜をくぐり抜けた人に「権限をふるう自由」を与えているだけなのです。

厳格なルールの発露として「自由な権限」を与え、そうやって上手く組織を回しているのです。

リモートもその手段のうちのひとつでしかありません。

自分の場合で言うと、外資企業でFP&Aとアナリティクスを手がけたポジションは直属の上司(CxOと担当上級管理職)が目の前にいなかったので、実質的にリモートと差はありませんでしたし、コロナより前からリモートを多用していました。

FP&Aはこちらに権限が割り振られるため、売上から資金繰りまでをモニタリングし、KPIを軸に予測を行って、次のアクションを打ち出していました。

各部門とのすり合わせを行ってアクションを指南するため、上司と相談することはあれど、一方的な命令を受けることはありません。

お金の流れとデータの流れで、社内全てを司るのですから、ITやオペレーションやデザインやコールセンターといった間接部門も、営業部門も、当然のことながらFP&Aの直下に置かれることになりますね。

「極限までデータドリブンで済ませる」という理念で仕組みが作られていたので、可能な限りリモートで対応ができたことも事実です。

すべては、こちらに決定する権限があり、データを駆使してマネジメントするという、権限を与えた資本主義リテラシーの仕事ゆえに実現できる話なのです。

それで回ってしまうという「機能ごと」の組織設計の話しとも言えます。組織がめちゃくちゃ大規模でもなく、かつ創業経営者が上司だったことも材料だと考えます。

 

いっぽう、外資IT大手は「自社の新規サービスをゼロから作る」ということをしなければなりません。

このとき「組織が大きいゆえに、無駄な社内調整や評価が生じる」ことになってしまいます。とすると、リモートがかえってジャマになるという仮説が立ちます。

これはストレートに言ってしまうと「新規サービス制作代行部隊」以上の物事を強いられているのです。

画面やUI/UXのデザインも、制作代行を完遂するアイディア出しも、一定レベル以上のリテラシーがあれば直接膝を突き合わせずとも外注業者と話すだけで足ります。

無駄に組織が大きくなってしまうと、関わる人が増えた結果、お客様に出す価値以上の「社内向けの価値」に目が行くことになります。

アイディア出しを含めた制作代行を行うならまだしも、社内調整は何も価値を作っておらず、それは権限のある資本主義とは異なりますね。

とすると、社内調整に走るための幹部や中間管理職は、極端に大きい組織がリモート化すると、一見して不要になってしまいます。

幹部や中間管理職の地位が危ぶまれると、組織として示しがつかないため、経営トップはそのような判断を下したのでしょう。

外資IT大手は創業経営者が身を引いているケースも多いため、なおさらサラリーマン経営が下に逃げるインセンティブが出たとも言えます。

サラリーマン経営者ではない場合、そのように煽ったほうが大組織を効率よく束ねられると合理的に見積もった可能性もあります。

 

もちろん、完全リモートでも制作も企画も可能であり、実際にそのようにしているIT企業もあります。

それと同時に、経営レベルで以前からリモートを駆使していた組織も多々あります。

また、日本の企業で明確なポリシーのあるWFA(Work from Anywhere/Anytime)の注力が、通信系の最大手企業を中心に目立ちますが、これは仕組みを作って権限を渡せばリモートが可能ということです。

これと対照的に、アメリカのIT企業がだんだんとリモートを減らしているという実情は、教会に集まるという慣習や、古代ギリシアから重視された「対話」という仕組みをなんとなく踏襲したふりをして、集団催眠にかけているのかもしれません。

「リモートは生産性が低い!」というストーリーをでっち上げておくことで、得をする誰か(この場合は大組織化した外資ITの経営者や幹部)がいると言えばわかりやすいでしょうか。

 

そうやって多面的に読み取ってみると、ポリシーのある権限の付与という要素もあれば、単なる流儀の違いで何となく決めているとか、あるいはサラリーマン経営者に都合がいいという可能性まで浮き彫りになります。

前者の日本企業は明確に「WFAで世の中を良くする。昭和的な発想は断固否定する」というポリシーがありますが、後者の外資IT企業はそのようなポリシーがなく漠然と「リモートは生産性が低い!」というデータを出しており、プリンシプルが見えません(データは本音に歪められます)。

プリンシプルが見えず漠然としてしまうと、人をまとめるための幹部としても「権限が小さい多数派の職位をさっさと動かす」という、トップダウン型のマネジメントにしたほうが楽だと、合理的に判断してしまうのです。

要はそれだけマネジメントの権限が強く、ボトムアップなどありえないため、頭を使ってポリシーを決めずに進めてしまえるのです。

FP&Aの権限が強いことの裏返しであけすけに考えると、「権限の小さい多数派は十把一絡げで扱うほうが早いんだよな」という本音が見え隠れするというのが、外資IT大手を取り巻く「アンチリモート」現象の本質かと思います。

 

現実解。

とはいえ「リモートのほうがいい!」という本音が、要の東西を問わずバレています。

日本の大手企業は、ワークライフバランスを無視してきたという過去にトラウマがあるため、通信系を中心にWFAやフルリモートを推進し、「出社=出張扱い」と定義しています。

商品・サービスが「欲しい!」となるには、本音に寄り添うことが基本です。

これは人材市場でも全く同じであり、待遇が良いからこそ外資企業をみんな目指すのです。

意外なところかもしれませんが、リモートの働き方を徹底することが、日本の企業にとって優位な要素をつくると考えます。

もともと、ボトムアップで現場に権限を渡す「やってみなはれ」を好む文化が日本にはありますから、

うまく運用することで、リモートと権限付与を軸に、世界から一目置かれるという可能性も十分にありうるのではないでしょうか。

boxcox.net、遠藤武。

遠藤武(えんどう・たける)
グロースハッカー。

↑詳しい自己紹介は上記リンクを参照。

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