「そもそもDX(デジタル・トランスフォーメーション)とは何か?」と聞かれたら、「本音を出して、荒馬を乗りこなすがごとく、実現させること」だと即答するようにしている。
DXはあくまで「トランスフォーメーション(transformation)」であり、これは変形・変革・変換という意味だ。決してITシステムの「導入」どまりではない。
この意味は、字義を同じくする『トランスフォーマー』というロボットアニメ作品から眺めれば、わかりやすいはずだ。同作品では、大型トレーラー(コンボイ)が人型ロボットに変形して活躍する。決してただ単に何かを導入するわけではないし、そうであれば作品は無味無臭で面白くない。
トランスフォーメーションとは、システムだけの話ではなく「変形・変革・変換」を伴うものである。そこにはストーリー性があり、システム面と人間面の対峙があり、本来はエキサイティングなものなのである。
例えば、デジタル化による新規サービスを市場に投入するさい、それに伴って大企業がスタートアップと座組みを組むこともあるし、既存の法人の外側に共同出資でスタートアップ企業を作って現行の厳しい社内規定にとらわれないように動くことが求められるケースもありうる。
大前提を揺さぶり、サービスや商品を作り出す側と、それを買い受ける側がストーリーを共通して受け入れ、本音で荒馬を乗りこなすことが「トランスフォーメーション」なのである。
現今のDXは、企業の規模の大小を問わず「全員お互い様の、手探り状態」という状況だ。
組織で言えば、営業や販売、マーケティング、製造現場、物流、人事、総務、経理・財務、技術者、IT部門、経営企画、そして経営者の、いずれにも例外はない。
業界で言えば、第一次産業(農業、林業、漁業)、第二次産業(工業、製造業)、第三次産業(小売業、医療・金融・IT・専門職などサービス業)の、いずれも例外はない。
これは仕方なしにそうしているのではなく、そう動く以外に現実的に言って、「既存の打ち手」がないためだ。
DXでは往々にして、皆が「既存の打ち手」になぞらえてうっかり思い込んでしまうが、それでは例外なくうまくいかず終わる。
組織内で言えば、ビジネス側は当然のことながら、IT側も既存の「システム導入」という、「既存の打ち手」でうっかり動いてしまい、対立が生じることなど日常茶飯事だ。
そうではなく『トランスフォーマー』のような変形合体ロボになぞらえると、「ビジネスとシステムの変形合体ロボを作り、誰が運転するか・誰が指令するかをフラットに決めて、文化とテクノロジーの壁を乗り越え、苦難と問題に立ち向かっていく」とストーリー立てることが出来る。
これを理解できない、部門ごとの職務規定を割り振られた縦割り組織では、混乱は不可避である。断言して良いが、そもそも99.99%の組織が「ビジネスとシステムの変形合体ロボ」とも言える「部門横串の流れ」を全く想定していない。
だからこそ、手探りでも「やるしかない」と腹決めしてしか、進めようがないのである。
上記はいずれも、私がオーナー企業経営者向けに「成長ハック」として仕組みで業績成長をしていく指南をしている背景でもあり、かつ大企業向には「部門横串で見ていくPgMO指南」をしていることからの洞察である。荒馬を乗りこなすという腹決めからしか、歩むことができないのである。
「それではあまりにも難易度が高すぎる!挫けそうだ!」という声が聞こえて来そうだが、ちょっとだけでいいから落ち着いて欲しい。
私の知る限り「DXなどカンタン!誰でも一瞬でできる!」という声は、企業の規模の大小を問わず聞こえてくることはないと確信している。
これ自体が、実は「どのみち混乱不可避だから、今のうちに対応してしまえば、先手を取れるチャンス」というシグナルなのだ。
大企業のサラリーマンで言えば、既存の職務要件がDXに伴って大きく変わり、デジタル関連職に就いて高待遇化するキャリアチェンジのチャンスがある。独立もできるだろう。
オーナー企業の経営者であれば、既存のマーケティングやマネジメントがDXに伴って大きく変わり、成長する事業展開や、人間側の変革を打ち出し、事業の高付加価値化とスケールアップのチャンスがある。
何もしないで指をくわえて待っているだけでは、DXの恩恵は受けられないが、勇気を振り絞って進んだ先に成長の勝ち筋が見えてくれば、そしてその勝ち筋が誰にも等しく用意された機会だとすれば、それだけで大きな希望があるのではなかろうか。
現実解を言おう。
今は大チャンスがあちこちに顔を出しており、データ分析でもアプリでもデータベースでもAPI連携でも、数学や統計学や機械学習・深層学習・AIでも、少し学べばいくらでも見返りがある。
特に「うちの業界は古臭いから…」「うちの会社は古臭いから…」と目を覆いたくなるようなレガシー産業や規制産業ほど、荒馬を呼び覚まして乗りこなすチャンスが隠れており、それは既存のDX関連の真似から始めても構わない。
数理統計学の知見から新規事業を作ってターンアラウンド(業績V字回復)を果たし、データプロセッシングカンパニーという触れ込みの企業をゼロイチから急成長へ導き、大手企業からオーナー企業まで経営レベルのDXを見て来ている経験のある私からすれば、ここで述べているのはすべて生々しい一次情報から来ている洞察だ。
模範解答がないからこそ、行動と知識回収でカバーできるというのは、夢がある状態ではないだろうか。
boxcox.net、遠藤武。