資金繰りと資金調達は、きちんと線引きしておく。

データ分析ここだけ話。

「資金繰りが大変で資金調達をするというケースを聞きます。資金のやりくりは営業面で、資金調達は株式発行や借入なので、普段の営業が大変な状態を資金調達でカバーするという流れにピンと来ません。遠藤さんならどんな説明をするでしょうか?」

 

資金繰りと資金調達が併せて(特に混同して)語られることがあるため、明らかにしておこう。

資金繰りと、資金調達は、そもそも別物である。

定義によって混ざるケースもあるのかもしれないが、ここではキャッシュフロー計算書に基づいて、別物としておこう。

まず前提として、

・営業キャッシュ・フロー(本業で売上を立てて経費を差し引いたあとに残った現金の増加分)
・投資キャッシュ・フロー(設備投資や投資有価証券買入で減った現金[orそれらの売却で増えた現金])
・財務キャッシュ・フロー(金融機関からの借入や社債発行・株式発行などで増えた現金[orそれらの返済や償還や利息支払いで減った現金])

の3つを覚えておこう。

 

ここからは資金繰り。

営業キャッシュ・フロー(本業で売上を立てて経費を差し引いたあとに残った現金の増加分)と、投資キャッシュ・フロー(設備投資や投資有価証券の買入れで減った現金)の話題であり、営業CF+投資CF=FCF(フリーキャッシュフロー)を増やすことがポイントだ。

資金繰りとは、原則は「ふだんの営業活動やそのための設備投資に伴う現金の動き」である。

 

ここからは資金調達。

財務キャッシュ・フローを取り巻く話題であり、借入・返済(社債発行含む)によるキャッシュの動きや、株式発行によるキャッシュの動きのことだ。

日々の営業とその強化を狙う投資のために、資金を引き入れる財務活動が、資金調達である。

 

スタートアップの場合は、創業CEOか、存在する場合はCFOが行う事項である。特にスタートアップが資金調達する段階では、必ずしも利益が出ている出来ているとは限らない。

というのも、CTO/CIOの管轄分野であるテクノロジー人材(=ITエンジニア)を、資金調達で引き入れれば、そのまま「アプリ生産装置」「プログラミング工場」が手に入り、数の暴力で市場を席巻して勝ててしまうためだ。

「大型資金調達を実施済!」「資金調達がうまい!」というのは、まだ利益も営業キャッシュフローも出ていないものの、市場を取れる!という大枠に資金が集まっているのだ。

この場合、一般的な資金繰りの発想は薄くなる。資金調達に伴って、ファンドから営業や事業投資(プロダクトづくり)のノウハウをもらえるケースが多々あるためだ。

もちろん、それが必ずしも斬新なビジネスモデルやがっしりした経営基盤といった仕組みの実装になるとは限らないが(ファンドは投資回収がゴールである)、実際にそのように回っているのである。

 

ここからがポイントだ。

「営業CF[本業の稼ぎ]+投資CF[設備や証券の購入or売却]+財務CF[借入・返済や株式発行]=BSの現金の増減」ということになる。

仮に本業の稼ぎが脆弱で営業CF(ないしFCF)がゼロでも、借入や株式発行による財務CFがプラスであれば、現金は増える。

スタートアップの場合、本業の稼ぎが脆弱なまま、財務CFである数十億円規模の資金調達を果たすことが多いため、通常の財務3表分析やキャッシュフロー分析(特に営業CF+投資CF=FCF)をしたところで、数字がおかしいままであるという状況に直面する。

このとき必要な分析は、

「財務CFではなく、営業CFの資金繰りまで進めるまでに、あとどれくらいの期間がかかるの?そもそも現金はどれくらいの割合で燃えているの?」というCFO的な問いかけと、

「そもそもこの事業は伸びるの?座組みや販路やコスト構造はどうまとまっているの?広報や広告ばっかりではなく、実需によるリピートや紹介は回ってる?」というCMO的な問いかけだ。

実のところ、資金繰りを行う企業である時点で、ちゃんと商品やサービスは市場を巡っており、サイクルに強みがある。

営業CFである資金繰りは利益が出ていて自走することが大前提であり、財務CFである資金調達は利益が出ていなくとも動くということだ。

 

 

資金繰りに戻ろう。

資金繰りとは、日々の営業とその強化を狙う投資のための、資金の動きをモニタリングし意思決定することだ。

価格と価値の設定、市場、販売、採用、設備投資を的確に回して成長する方策を探って実行するのである。

起業の場合はCxOが全て揃っているとは限らないものの、CFOとCMOとCTO/CIOの仕事が関わってくる。

規模はさておいて、事業がすでにコンスタントに売上と利益を出して動いている場合、スタートアップよりも2代目3代目企業のほうが資金繰りは強い。

というのも、既に事業として自走しているためだ。

利益を出す投資対効果と、お客様や従業員への価値や、現金の増減に気を配る必要がある。ゆえにがっしりした土台があるのだ。

一方でスタートアップの資金繰りは「バーンレート(現金燃焼率,1ヶ月あたりに要するコスト)」を元に、「ランウェイ(現金残高とバーンレートから逆算して残り何ヶ月や何日で資金不足に陥るか)」を算出する。

まだ自走できておらず、かつ運営面も脆いため、資金調達が出来ないと営業ができず解散する可能性もある。

逆に言えば「資金繰り」が成り立つ時点で、顧客が定着して利益(≒営業CF)が出ていることになり、ちゃんと事業が回っているのだ。

 

現実解。

「資金繰り」ができている時点で営業や運営の土台があり、「資金調達」で目立つ段階は広報どまりで突然撤収する可能性がある。

複数のスタートアップの内情を知っているが、エンジェル投資家やVCが、出資先の伸びる・伸びないを的確に読めるとは限らないのである。

財務諸表に直接出ると限らないからこそ、内側と外側を丹念に読み取り、営業が回って自走しているのか、広報のためのお金が回っているだけで、営業はからきしなのか、区別する必要がある。

 

追記。

「この事業やテクノロジーって、無理にスタートアップでやらずとも、既存の中くらいの規模の企業のほうが得意なのでは?」

という実情を、スタートアップから読み取ろう。

出てくる情報が、本当の資金調達なのか、ただの広報なのか、区別できるはずだ。

boxcox.net、遠藤武。

遠藤武(えんどう・たける)
グロースハッカー。
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■遠藤武のやっていること■

・社長向けに「仕組み化」のプライベートアドバイザリーを手がけています。

・中央経済社『旬刊経理情報』誌にて「仕組み化とデータ分析」の見開き2ページ連載記事を、2022年7月より月2〜3回ペースで執筆しています。
(2025年2月に60回を超え、同誌における単独連載回数の記録を更新中)

・中央経済社より、今夏に書籍発売を予定しています。

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